Angling Net / Story of Great Topwater Plugs

Fred Arbogast "Jitter Bug"

蝉しぐれの夏の午後‥‥‥息を飲む瞬間

■ルアー界の一節太郎
ジッターバグ‥‥‥いったい何がヒントになってこういうカタチが生まれたんやろね。
あまりにもシンプルで奇抜で完璧すぎる。ジッターバグは今も世界中のバスプラグの最高峰に君臨する。
もしこのプラグがなかったら、フレッドアーボガストという名前は消え去ってたと思うよ。なにしろこれ以外のプラグはどれひとつとっても精彩を欠くからね。つまり、フレッドアーボガストはこの一本で生き延びることができたメーカーやと言える。
一節太郎が「浪曲子守歌」1曲で30年以上歌い続けてる状況とおんなじやな。

■二十年前の夏の昼下がり
力尽きたアブラゼミが池にせり出した木の枝から「ポトン」落ちて、水面をバタバタとまわりはじめた‥‥‥と、それを大きなバスが「バフッ」っと一飲みにした。

‥‥‥‥‥‥せみ。

強烈なせみ時雨で頭がくらくらする。
「ジージージージー」
両手で耳を塞いでも響いてくる。
「ジージージージー」

東条湖のすぐ近くにある小さい池の、大きな木がオーバーハングしたその下‥‥‥まださっきの波紋が残ってる。その同心円の中心にジッターバグを落とした。

「パコパコパコパコパコ‥‥‥」

ゆっくりと5001Cのハンドルを巻くと、まるでジルバを踊るように軽快に水をかき分けて踊る。次に起こる衝撃を期待しながら固唾を呑む‥‥‥

「バフッ!」

「出たあ!」

シェクスピアのヤスモングラスがしなってきしんだ。
蛍光色のストレンが風を切って鳴った。

■ジルバを踊る東京キッド
美空ひばりの「東京キッド」で、ジターバグというのが出てくる。あれはダンスの「ジルバ」のことやと思うよ。

もちろん、ジッターバグはジルバ以外にもいろんな踊りができる。小刻みにジャークしたらツイストも踊るし、ロッドチップを上下に振ったらタンゴも踊る。けど、やっぱりジルバが一番やね。単純明快。ただただ巻くだけ。楽ちんこの上ない。

これは想像やけど、このプラグを考案したフレッドアーボガストの手首は、腱鞘炎やったんちゃうやろか。