Angling Net / Story of Great Topwater Plugs

Heddon Chugger Spook
知恵の悲しみ・チャガースプーク

チャガー‥‥‥最近見かけへんねこれ。どうも変な希少価値が付いて、不当な値段で売り買いされてるみたいやね。

久しぶりにチャガー手に取ると、トップウォータープラッギングに挫折した頃のことを思い出してしまう。ははは、「挫折」なんて言うたらえらいオーバーやけど、バス釣りが「イヤ」になったことはたしかやね。もうやめてしまおと思たよほんまに。ヘドン・チャガースプーク‥‥‥なんともほろ苦い思い出のあるプラグや。

Heddon Chugger Spook 75mm, 1/2oz

1980年代の後半、ホームグランドの琵琶湖は日ごとに釣り人が増えて、もう「私のパラダイス」などと呼べるような場所やなかった。それで仕方なしに琵琶湖を離れることにした。もっとのんびり釣れる場所を探して東奔西走した。ちょっと焦ってたね。
それにしても、あの巨大な湖に棲むおびただしい数のバスを、一気にスレさせてしまうフィッシングプレッシャーって‥‥‥考えてみたら人間て恐ろしいね。

で、あちこと探し回ったけど、それは徒労やった。だいいちそんな都合のええ場所なんかそうそうないよ。遠いとこまで遠征したらあったかもしれんけど。
結局、近所のバスポンドで釣れへん釣りを強いられるか、琵琶湖や池原ダムの喧騒の中で気の休まらん釣りをするかの二者択一しかなかった。迷わず前者を選んだよ‥‥‥。
しかし、すでにオンスプラグを投げるのが当たり前になってたから、小さなバスポンドの小さなバスを相手にするのはごっつう難しかった。大型プラグではまったくと言うてええほど通用せんかった。当然と言うたら当然なんやけど‥‥‥。

そこで、意を決して小さめのプラグを投げることにした。大げさやけど、ほんまに「意を決して」やね。で、お蔵入りになってたヘドンやアーボガストの小型プラグを引っぱり出してきて、近所のバスポンドで投げてみた。そしたらバスも正直やね。サイズを落としてやったらにわかに飛びついてきよった。
その頃の小さめのプラグの代表格がこのヘドン・チャガースプーク。陸っぱりで釣り歩くときなんか、一日中チャガーを結んでることもあった。で、またよう釣れるんやねこれが。

これは私の理想とするバス釣りやない。けど、なにしろ釣りたいという欲求が理想に勝ってたわけで‥‥‥。で、毎日、毎日、がんがん釣った。「釣りたい」「竿を曲げたい」という安っぽい欲求はすぐに満たされたよ。
しかし、そういう釣りは一時的な空腹を満たしてくれるだけで、しばらくすると、ますます欲求不満を助長してるんやね。いっぺん本物の蜜の味を覚えたら、人工甘味料では納得できんのといっしょで、これもひとつの「知恵の悲しみ」かな。

そのうちバスをプラグで釣ること自体がイヤになって、毛鉤(フライフィッシング)でバスを釣ることに活路を見いだそうと試みた。これは最初は大成功に思えたね。なにしろ休日の混雑したバスポンドでも、じゅうぶんバスを引きずり出せたし、ワームピッチャーの数倍は釣ったからね。
しかしこれも長続きせんかった。なんぼ大きなバスバグやポッパーを使うても「出方」がショボかった。木でできたプラグのあの重量感あふれる出方に勝ることはなかった。トップウォータープラッギングの最終章「水面ドッカーン」を味わえんのでは論外やからね。

それから再びプラッガーに戻るまでに数年を要した。つまり1990年代前半から中ごろまでの数年間、私のトップウォータープラッギングには空白がある。その間、バス釣りに行く回数も極端に減ったし、トップウォーターバスバギングをしながら、何かイライラしてた。釣りは続けてたけど、釣りそのものが面白なかった。
しかし、この空白があったから今のバス釣りが面白いんやないかな‥‥‥思う。たしかに回り道ばっかりしてきたけど。数も型も往時に比べると十分の一以下やけどね。それでもなおバスをトップウォータープラグで釣ることに魅力を感じ続けてられる。

それはいったいなんでか? 理由は簡単‥‥‥「面白いから」。ははは、こんな簡単なことがわかるのに20年もかかってしもた。