Angling Net / Fishing Reports

Top Water Junky が炸裂する
ジャンキー内藤とバスを釣る

この底抜けに明るい笑顔から、あのプラグが生まれる

マーキュリーの5馬力が朝もやを切り裂きながら上流をめざす。
周囲の景色はみるみる町から田舎へと変わる。
それに合わせて水が青さを取り戻す。
まだ明けやったばかりの空気は湿気を帯びて冷たい。
胸の奥に冷気が染み込んで季節が晩秋であることを教えてくれる。
暦はすでに十一月になっていた。

緩やかに蛇行しながら走り続ける。
葦、布袋葵の水生植物の群生と、石垣や橋脚などのマンメイドストラクチャーとが、バランスよく配された風景に目を奪われていると、やがてボートはスローダウンした。

「ほな、この辺からやってみるけん」

ジャンキー内藤の底抜けに明るい阿波弁が、耳元で心地よく響く。その言葉の余韻が楽しい一日の始まりを予感させた。3本のロッドの全てに、トップウォータージャンキーのプラグを結んだ。ファットボーイ、マフ、そしてマイフェバリット、ヴァンガード。

静かな佇まいの奥に大物の予感がする

                     鏡のような水面にはプラグが演技するたびに起こる波紋だけがひろがる。
静かで、長閑で、豊かな空気が支配し、ゆるりと時を刻んでいた。
と、突然、後方で嬌声があがった。レイチューン上原とワタナベナオキの乗った別の艇。

「うわっ、むこうはもう釣れたみたいや」
「ほんまじゃ、こっちは船頭が悪いけん、ははは」

その後も、後方のボートはわれわれの釣り損じを確実に拾っていた。ようやくこちらのボートに挨拶があったのはずいぶん後のことだった。それは布袋葵の際に私のヴァンガードが落ちると同時だった。

「出た!」

激しく水面を突き破って出たバスは弾丸のような速さで水中に潜る。ほんの一瞬だったが、ロッドは限界曲線を描いた。いわゆる「満月」。しかし、そこでバスは首を振ったのか、次の瞬間糸は抵抗力を失った。

「あかん、ばれてしもた!」

樹木と水生植物に覆われた広大なエリア。思わずノドから手が出そうになる。

その後も、ぽつりぽつりとバスは挨拶に来たが、「こんなでかいプラグ、口に合わん!」と言って吐き出していった。さらに別のポイントで

「ここ、絶対!」

と、J・内藤が指し示すポイントにマイフェバリットをプレゼントする。
波紋が消えるのを待って、じゅうぶんにポーズをとったあとのワンアクションでそいつは出た。小さな水柱を上げただけだったが、ロッドを立てた瞬間、大物だとわかった。
今度はジャンプされないようにロッドを下げたが、またしても逃げらる。

「ああ‥‥‥」

呻きとも溜息ともつかない声が漏れる。今のはでかい。でかかった。これぐらいあった。縛られていない釣り人の両腕は無遠慮に広がる。そして、顔を見合わせ笑い合う。しかし、バラすぐらいならジャンプさせておけばよかった。

釣り始めて何時間が過ぎたか、そろそろ一匹目をと思い始めた頃、J・内藤のプラグに「ガボッ」と出た。しかし、ラインが岸際の草に引っかかっていて空振りだった。
すかさず追い食いを狙って投げた私のヴァンガードに「ズドン」と出た。同じバスだった。サイズはたいしたことないが、とりあえず今日の一匹目を慎重に取り込んだ。まるで彼のバスを横取りしたような恰好だが、彼は顔をクシャクシャにして喜んでくれた。

ヴァンガードに緊張をほぐしてくれる一匹‥‥‥小さいけど。

これでテンションが高くなるかというと、そうではなかった。すでに50cmアップを狙うというような生臭い気分は萎えていた。何もせず、ゆらり揺られて漂っていたい気分だった。それはJ・内藤も同じだったと思う。
ボートは、そんな気分を乗せて静かに水面を滑っていった。開高健を読みあさった話、海でフロータを浮かべて釣りをした話、共通する話題は尽きなかった。

今朝始めて出会って、まだ数時間しか経っていなというのに、これほど穏やかな気分で一緒に釣りができるのは何故か‥‥‥と考えていた。それは多分、同じジレンマを共有している者どうしだからではないか。トップウォータープラッギングという、今のニッポンのバス釣り事情から見るとあまりにも自虐的な釣法を踏襲する者どうしの‥‥‥。

ふと、この夏に南部茂樹と釣りをしたことを思い出していた。あのときも釣れなかったが、同じ気分だった。

こちらも使い込んだ黒のヴァンガードに一匹‥‥‥小さいけど後方は「R・上原」と「かたわれナオキ」の艇‥‥‥絶好釣!

午後からは、レイチューン上原と3人で釣ることになる。アルミボートは3人で乗るには少し手狭だったが、四国の巨匠2人とやるバス釣りは最高に楽しい。
3人は終始ぺちゃくちゃとしゃべり合って、まったく釣りに集中していなかった。バイクの話になったり、プラグ作りの話になったり、取りとめがなかった。私はこのゆったりとした時間を心ゆくまで満喫していた。時折

「まじめに釣りや」

というように、話に夢中になっているとバスが出た。バスもそんな私の心の内を見すかしていたのだろう、すべて空振りだった。こいつには釣られる心配がないと見破っていたのだろう。ははは、まさにその通りだった。私からはハングリー精神が完全に消滅していたのだ。

J・内藤がグローブで出した一発には、さすがに気合いが入った。こいつはやるなと思わされた。よーしそれなら、と思ったが、その闘志も瞬時に立ち消えた。自分が釣るより嬉しかったからだ。まるで自分が釣ったような気分になっていた。

J・内藤のフルーガー・グローブに出たファッティバス。

空気がいくぶんひんやりとして、風が少し出始めた。気がつくと、すでに夕闇がせまっていた。ベストタイムだ。
のんびり構えすぎていた私も、ここで気合いを入れ直そうと試みた。J・内藤も、なんとか私に一発大物を釣らせようと操船してくれた。が、手遅れだった。一度たるんだファイティングスピリットを再び点火するのは困難だった。

あっと言う間に一日が終わった。そういえば時間の経つのを忘れるということが久しくなかった。しかし、この日はまるで少年時代の一日だった。


return to topwater bassin'