Angling Net / Fishing Reports
秋の終わりにでかいバス
秋の終わりにでかいバスが釣れると信じて20年目の‥‥‥秋
晩秋バス御用達 「Vanguard」
徳島の「きゅうよし」へ行ってきた。
きゅうよしというのは、旧吉野川の通称。すぐ横を流れる大河「四国三郎・吉野川」の旧河川。その吉野川は今、河口堰問題とゆう難問を抱えてる。またも、悪評高き長良川の二の舞を演じようとしているわけで、国策はまさに酷策と言わざるを得ない。馬鹿者に世の中を任せてるとこういうことになる。
で、今年最後のトップウォータープラッギングをやるためにきゅうよしへ行ってきた。実は先々週、岡山県のマイパラダイスで、納得のいく釣りをしたつもりやった。しかし、時間が経つにつれて、何か吹っ切れんもんがニョキニョキと頭をもたげてきた。
「あれで納得できるんかぁ?」
と、悪魔が耳元で囁く。
「あかん」
やっぱり納得してない。もういっぺん「ドカーン」と出さんことには年が越せん‥‥‥。
きゅうよしが「釣れる」と話題になって、既に10年近い歳月が過ぎてる。関東や関西の名だたるバスポンドに比べたら、まだまだここはパラダイスかも‥‥‥。しかし、ピークはたしかに過ぎてる。
3日ほど前の情報では、トーナメンターが底を引っかいてさえ渋かったと聞く。しかもこの一週間、朝夕の冷え込み方は尋常ではない。気温も平年をはるかに下回ってる。決してええ条件ではない。
もし、トップウォータージャンキーに出会うてなかったら、シーズン最後のプラッギングをここでしたやろか? 答えは「ノー」。トップウォータージャンキーが、やる気と根気、あるいは勇気と元気を与えてくれた。おかげで、私は「ジャンキッキー」な気分できゅうよしへやって来たというわけ。まさに「おかげ」もんである。
「欲」はないつもり、一発出たらそれで満足。
11月26日、昼過ぎ。
きゅうよしの分流、今切川(いまぎれがわ=「今にも切れて決壊しそうな川」の意らしい)の川原にたどり着くと、ややしてアルミボートを積んだジャンキー内藤の車が堤を駆け降りてきた。
「どうもどうも」
「いやどうも」
「結構ええ天気ですねえ」
「うん、出るねこれは」
「ははははは」
ジャンキー内藤の屈託のない笑顔が、不安な気分を吹き飛ばしてくれる。快晴微風、なるほど一見絶好のコンディションではある。
そそくさと準備をして鏡のような水面に滑り出した。今切川の護岸、葦原などをゆっくりと流しながら、ボートはやがてきゅうよしへと入っていった。川岸の葦の群生は薄茶に色づき、忍び寄る冬の訪れを告げていた。抜けるような晩秋の青空を反映したみなもは、さらに輝きを増していた。
「もう冬の色やな」
「早いねえ、あとひと月で正月やけんね」
水温13℃‥‥‥けっこう温い。手頃な風が出始めた。
まちがいなく出る‥‥‥はずやった。しかし、きゅうよしは口を開こうとはせず沈黙を通していた。
そう簡単に出てくれへんことは最初から覚悟してたし、それでがっかりすることはなかったけれど、それにしても焦れったい。
釣り始めて2時間、時計の針は3時を指していた。日が西に大きく傾こうとしていた。秋の日は釣瓶落とし‥‥‥か。
「ここらで出んかったらあきらめよか」
「うん‥‥‥出そうやけどね」
「あと30分やってあかんかったらあがろ」
「‥‥‥うん」
岸辺から大きな木が迫り出して水面にオーバーハングしてる。奥には腐って沈みかけた布袋葵の群生が漂うてる。
「ここかな?」
と、投げたヴァンガードが「ゆるゆるぽとん」
プラグは美しい放物線を描きながら、複雑に張り出した枝をかすめてピンポイントにジャストミートした。いやあ、珍しいことがあるもんや。生涯最高とも言えるキャスティングが決まる。
どうもジャンキー内藤と釣りをすると、集中力に欠けるきらいがあるからね。楽しすぎてね、キャストの瞬間までペチャクチャしゃべってるから、プラグはどこへ飛んで行くかわからへん。
キャストするときは口閉じて奥歯を食いしばるのが基本。口開けっ放しやと方向性がまったく‥‥‥。
で、スケーティングを何回したかな。岸からなるべく離れんように、左へ大きく右へ小さく、左へ大きく右へ小さく‥‥‥「ツーツツツー」と滑らせる。
「ぐぁぼっ!」
突然、水面が裂ける音がして、水柱が上がった。
「うわお!」
とっさに立てたロッドは一瞬満月を描く。「これはでかい」と思うと同時‥‥‥「ふっ」と手のひらから抵抗が消失した。ロッドは一本棒に戻る。モスグリーンの背中を丸めるようにして、バスは元のきゅうよしへ帰っていった。
水面には大きな波紋だけが残っていた。
「出たねえ!」
「出ましたねえ!」
「ふうっ」
両腕にはしばらく電流が走っていた。肩のあたりがジンジンとしびれて、ゾクゾクッと武者震いが出た。結局、これがこの日唯一のヒット。半日やって、オンリーワンチャンス。しかし見事に決めた。勝利の女神は微笑んだ。
一発出たらそれでオーケー、その瞬間にすべてが決着してる。元々この釣りはそういうもんである。したがって、取り込んだかどうかやなしに、出たかどうか、それが大問題なんやと思う。なんか、バラしたことの言い訳っぽいけどね。
この一撃に気をよくして、夕方遅くまでやってしもたけど、案の定、後は続かへんかった。私はとゆうと、既にじゅうぶん充たされていた。闘争心はことごとく萎えていた。ほろ酔い気分‥‥‥
夕闇が迫って、乳白色の黄昏がきゅうよしの川面を支配していた。まるで牛乳瓶の底に居るような錯覚に陥った。私はボートのバウに佇んで、しばらく味わうことのなかった充実感に浸っていた。
おおきに‥‥‥これで年が越せる
とゆうわけで、今回はバスをぶら下げてにやけてる下品な写真はない。悪しからず。
26 November 1998 At Kyuyoshi
Ikasas Ikuy
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