Angling Net / Topwater Bass Fishing



悔しくて眠れなかった夜

大きなバスをバラして、悔しくて眠れなかった夜がお有りだろうか?
ボクはそんな夜を何度も経験している。やっと眠りについたかと思うと、今度は大きなバスに竿を曲げられている夢を見てうなされる‥‥‥

ルアーが小さいことを除けば完ぺきなバスフィッシング


一昨日、ボクは大きなバスをバラしてしまった。今季初バスになるはずだったそのバスは、巧みに障害物に突進していった。
元々そんなところに投げるのが無謀だった。しかし、投げてしまったものは仕方がない。そして出てしまったのだから仕方がない。
必死のやり取りで突進をかわしたが、最後の最後に倒木の下に潜り込まれてしまった。極めて不利な状況であることは明白だった。なかばあきらめ気味で最後のチャンスにかけた。倒木を乗り越えようと一気に竿をしゃくったのだ。しかし、その拍子に外に出ていた方の鉤が倒木の枝に引っ掛かってしまった。バスとの距離は10m足らず‥‥‥。

足元はニーブーツだった。思い切って池に入る覚悟を決めたその時、竿をひん曲げていたテンションが「フッ」と消えた。

万事休す‥‥‥


その夜、目を閉じるとそのときのシーンが蘇ってきた。バラシた瞬間の大きな波紋がまぶたに焼き付いていた。ぼう然と立ち尽くす自分の姿が浮かぶ。いくら払拭しようとしても拭いきれない悔恨である。


あれから二日後、犯人は現場に戻った。
しかし、状況はまったく違っていた。今にも降りそうな曇天無風から、抜けるような青空に変わっていたのだ。おまけに温かくて強い南風が水面を波立たせていた。

一昨日の反省から、今日はチェストハイウエーダーで臨んだ。一昨日の水深60cmのエリアにはバスは居なかった。岸際をたたきながら深場へと釣り進んでいく。出ない‥‥‥。

しばらく釣り進むと、切り立った崖の岸際は急深になっていて、それ以上釣り進めなくなった。あきらめて戻ろうと思ったその時、沖目で小魚が跳ねた。強い日差しに銀鱗が輝くのを見逃さなかった。小魚は二度、三度跳ねた。それは大きなバスに追われて逃げ惑うときの跳ね方だった。

「なんであんなところで‥‥‥?」

小魚が跳ねたのは池の真ん中だった。水深3m、いやもっと深いかもしれない‥‥‥答えは馬の背だった。いや、馬の背というより、池を二つに仕切っていた土手が崩れて水没しているのだ。よく見ると青緑色の水の中に薄茶色の帯がうっすら見える。崩れた土手は対岸まで続いていた。

「できるだけ小さくて細長いルアーを投げよう」

バッグに数個入れておいたプラグの中からザラパピーを結ぶ。この日は強い向かい風を考えてスピニングタックル‥‥‥着水と同時に激しく水面を超高速トゥィッチ‥‥‥

「ズバーン!」

絵に描いたようなシーンだった。見事に水面を突き破ったバスがヤワな竿をひん曲げる。ドラッグが出る。華麗なジャンプを見せる。ボクの体の中で血がグツグツ音を立てているのが分かる。

それでもドラッグを締めなおしつつ冷静さを取り戻す。ボクとバスとの間にはなんの障害物もなかった。絶対的有利な状況だ。2分足らずでバスの突進は止まった。あとは意外なほど簡単に寄った。

巨体の割にはまだ体力が回復していないのか、左手の親指を口の中に入れられるとバスはすぐに観念した。
50cmを超えていると思ったが、測ってみると少し足りなかった。それでも筋肉質で体高のあるスーパー野池ランカーだった。

こいつを釣りたくてわざわざやってきたのだ。たぶん一昨日のバスとは別の魚だと思うが、リベンジは成功した。

年に一度はこういう釣りをしてしまう。挑戦的で、自虐的で、なかばケンカゴシの釣りである。納得のいかないことや、取り返しのつかない失敗をしたあと、何が何でもボクはこういう釣人になってしまう。つまり、気持ちだけはまだまだ若いのかもしれない。

しかしボクはこれ以上のことは何も望まない。気が晴れた。気は晴れた。






ボクの人生の中で一番長い間やってきた釣りがバス釣りだ。しかしそのバス釣りには、その当時から常に逆風が吹いていた。市民権を得られないまま、バスだけが悪者にされ続けてきた。そして今、さらに強い逆風が吹いている。バス釣りの一体何がそんなに悪いのだろう?

バス害魚論は飽きるほど聞いた。言い分も分からなくはない。それでもなお、ボクにはバス釣りを止めてしまう勇気がない。否、バス釣りを続ける「勇気はある」と言っておこう。


「こんなオモロイこと、なんで止められまんねんな」


2003.4.16

東播の野池にて

ikasas ikuy



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