Angling Net / Topwater Bass Fishing
寂蓮法師の言い訳
The excuse of Jackren Houshi.
坊主には必ず理由がある。なるべくしてなる坊主もあれば、劇的な不運に見舞われた結果の坊主もある。いずれにしろ、坊主は救われない。
竹が究極の弧を描く‥‥‥美しい
未明、淡路島の稜線を走りながら、四国の真上に浮かぶ満月を眺めていた。月は煌々と瀬戸内の海を照らしていた。現実離れした幻想的な世界に、ボクは酔いそうになった。
今切川の堤に車を停めた頃、月はようやく西の山陰に身を沈めていった。ジャンキー内藤はすでに到着していた。
秋晴れである。
非の打ち所のない完ぺきな秋晴れである。
「バスは低気圧を釣れ」
まず言い訳をひとつしておこう。バス釣りの常識として、今日みたいな高気圧は、確実に魚の活性を下げるのである‥‥‥。
台風の影響。濁りが残っている。これもバスの活性を下げる立派な一因だ。
水温15.5℃‥‥‥悪くはないが、この数日で急に下がっている。下げた15℃は良くない。
理に適った言い訳だ。
言い訳を探せばいくらでも出てくる。
この日持ち込んだタックル‥‥‥例えばファントムPPB561MLというロッドはボクの釣りには硬すぎた。それに組み合わせたゼニスのグリップはトリガー横の出っ張りが邪魔で非常に釣りにくい。マツモトーイのダイレクトドライブリールはパーミングするたびにメカニカルブレーキのダイヤルに掌が触れて少しづつ設定位置が変わってしまう。ジャストロンというラインはヤスモノでクセが付きやすい‥‥‥などなど、坊主の言い訳は山ほどある。
しかし、言い訳をしているうちは、人間は大きくなれない‥‥‥
「言い訳無用」とばかり、ジャンキー内藤は釣る。
チャンスは12時間のあいだに一度か二度しかない。そのチャンスをモノにするか否かは釣り人のウデにかかってくる。
そして何より、忍耐力、精神力、集中力が問われる。
一年半振りの944で、ボクは釣り方をすっかり忘れてしまっていた。ボートからの釣りを忘れてしまっていた。フロータの釣りとの距離感の違いや、ロッド操作の違いに戸惑っていた。
しかし、それは情けない言い訳だ。トップでバスを釣るのに何ら違いはないのである。
二十年前、ボクはバス釣りの天才だった。世界中の誰よりも優秀なトップウォータプラッガーだと自負していた。少なくとも自分ではそう思っていた。
しかしそれは大きな錯覚だった。二十年前のバスはとてつもなくイージーだったのだ。だからボクのようなヘタクソでも簡単に釣れたのだ。
日没直前、ジャンキー内藤のバンブーが曲がったとき、今更ながら自分のヘタクソさ加減に気が付いた。
決して諦めてはイケナイ
最後まで集中力を切らしてはイケナイ
それはじゅうぶん分かっているのだが
なかなか実行できない
キャストがいい加減になる
煙草の本数が増えて手が止まる
ばか話に夢中になって手が止まる
しかし
それらすべてに打ち勝たなければ
こんなタフな日のバスは手にできない
久しぶりの944で、ボクの老体はガタガタだ。肩も腰も腕も脚も掌もガタガタだ。もうしばらくバス釣りはしたくない。
それでもまたここへ帰ってこよう。一匹も釣れなくても、またここへ帰ってこよう。何故なら、ここでジャンキー内藤とプラグを投げたいから。たとえ坊主になったとしても、また新たな言い訳を考えればいいじゃないか。
日は沈んだ
東の空には
朝と同じまるい月が
赤あかと浮かんでいた
鏡のような水面が
秋の夕暮れに染まっていた
2004.10.28 ikasas ikuy
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