Angling Net / Ikasas Ikuy Marvelous World
四国の巨匠のこと
About Great Masters in Shikoku
高松の巨匠"Ray Tune"と徳島の巨匠"Top Water Junky"
1998年春、明石海峡大橋が開通した。私の住んでる宝塚から、徳島の鳴門までたったの1時間半。さらに高松まで2時間半。4時間あったら高知まで行ける。ちょっと前までは、高知へ行くのにフェリーを乗り継いで9時間以上かかったのに‥‥‥。
橋が開通したのはいいけれど、その煽りで乗客が激減した甲子園フェリーが廃業した。阪神間から淡路島へ通う釣り人にとって、甲子園フェリーは重要な足だった。フェリーがなくなった今、淡路島は遥か彼方になってしまった。
代わりに、四国が目と鼻の先になった。これからは四国が私の釣り場になるるのではないかという気がしている。橋の功罪は、この先どんなカタチで現れるのか想像もつかないが、魚釣りひとつとってもこんな調子だから、あらゆるものが変化していくと思う。
四国と言えば今からちょうど一年前、徳島から一通のメールが届いた。「兄が作ったプラグをホームページで紹介してほしい」という内容。ちょうどホームページでオリジナルプラグの紹介を始めたところだった。それを見た弟氏が兄のためにメール書いた。明快で簡潔な内容と、何のてらいもない文章は心打たれるものがあった。
添付されてたGIFファイルを開いてみたら、いかにも骨っぽいトップウォータープラグの写真が出てきた。それがトップウォータージャンキーとの出逢いだった。
そのプラグをホームページで紹介したら、お礼だと言ってプラグを2つ送ってくれた。一本は独創的なデザインの漆の研ぎ出し、もう一本は地味なクラックル仕上げのペンシルベイト。研ぎ出しの方の色とデザインには圧倒されたが、クラックルの方は何の変哲もない旋盤削りのペンシルで、正直言って何にも印象に残らなかった。
ところが、クラックル仕上げのペンシルは爆発的に釣れた。これほどロッド操作に追従してくるペンシルが今まであっただろうか? ザラでも、ビッグッシュでもここまで軽快に動いてくれない。プラグの名前は「ヴァンガード」。
春のシーズンだけで相当数のバスを引きずり出してくれた。そして、このプラグの制作者に遭ってみたいと思った。
Top Water Junky "Vanguard"
Length:95mm, Weight:3/4oz
制作者は内藤賢二。その年の秋に初めていっしょに旧吉野川を釣った。第一印象は「爽やかな田舎の兄ちゃん」だった。
あれから何年か経って、何度も一緒に釣りをして遊んだが、彼はあのときの第一印象とまったく変わらない。内藤賢二‥‥‥ニッポンのジェームズヘドンになる日も近い。
もう一人は高松の「レイチューン」というミノーのビルダー。突然e-mailが来て、私に「ミノープラグ作ってあげるよ」と言ってくれる。何故こんなに親切に言ってくれるのだろう?と、ちょっと不思議に思ったのがレイチューンとの最初の出逢いだった。友人の内藤賢二を紹介してくれた礼だと言う。
しかし、私は「ミノー使い」ではないし、トラウトは毛鈎、バスは昔からトップウォータープラグと決めてる。せっかくミノー作ってもらっても使いこなせないからと遠慮した。それでも作ってくれると言う。そしたら「それでビワコオオナマズ釣ってもいいかな?」と、恐る恐るきいてみた。そしたらふたつ返事。「ナマズを釣るためのリアルミノーじゃないよ」と断るのが普通だと思ったのだが‥‥‥。
で、送ってもらった包みを開けると、これまた独創的なデザインの精巧なプラグが数個。ニッポンのハンドメイドルアーは世界に誇れるというけれど、これはその中でもすば抜けてると思った。私がどんなに丁寧な仕事してもこれは出来ない。レベルが違う。
奇抜なデザインのプラグに混じって、何の変哲もないフローティングミノープラグがひとつあった。「レイチューンやまめくん」。私はこのなんの変哲もないシンプルなシェイプのミノーを一発で気に入ってしまった。このミノープラグには奇をてらうというところが一切なかった。とにかくドキッとするぐらいナチュラル。悪い言い方をすれば、「これで釣ったらエサ釣りだ」というぐらいの反則技スレスレ。
Ray Tune "Yamame-kun"
Length:90mm, Weight:10g
その後、二、三年の間にこのミノーで数々の魚を釣った。池、湖、川、海。ありとあらゆる場所でありとあらゆる魚を釣った。
ある時、ナマズを釣っていて底石をかいてリップを折ったことがあった。修理に出したらリップは強化されて戻ってきた。里に帰った嫁が戻って来たような気がした。
このミノーの作者は上原徹也。緻密な計算をカタチにできる類い希なる男である。しかも気持ちのさっぱりしたナイスガイ。
その後、私は彼のルアーで釣りをしながら、あるいは彼といっしょに釣りをしながら、大いに刺激を受けた。彼は私を「師匠」などと呼ぶが、それは誰の目にも明らかように、逆である。
13 Oct. 1998 〜 2 Aug. 2001(rewrite) ......... Ikasas Ikuy
return to think aloud
|