
Revi Strauss 501 and
South Bend Bass Oreno
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マーメイド
福袋を開けると
中から変わったルア−が一個出てきた
「なにこれ?これだけ?」
不平を言うつもりはなかったが
つい口を突いて出てしまった
なにしろ1万円の福袋にしては
お粗末すぎる気がしたのだ
「これは幸運を呼ぶルア−なんですよ」
福袋を渡してくれた事務服の女性が
優しい声でそう言った
「へえ、そうなんですか」
「いい魚が釣れるのよ」
「いい魚って?」
「それは‥‥‥」
僕の質問は少し意地悪く聞こえたかもしれない
女性は困ったような顔になった
「ごめんなさい、私‥‥‥」
女性は言葉を詰まらせたが、こう続けた
「魚釣りしたことがないの」
すまなさそうにそう言った
釣りもしたことがないクセに
「ざけんじゃねえよ」と、言おうとしたが
僕の口から出た言葉はそうではなかった
「じゃあ今度の日曜日に僕と釣りに行きませんか」
普段の僕にはとてもそんな台詞を言う勇気はない
しかし、なぜかその時はスラスラとそう言ってしまったのだ
「ほんとうに?」
「もちろん」
「じゃあ、お願いしまーす」
よく見ると笑顔のかわいい美人だった
学校の帰りに友人のFといつものコンビニへ寄った
「明後日の日曜日だけど、どうする?」
「日曜日って?」
「Kとスノボやりに行くんだけど、オマエもどう?」
「あ、オレちょっと用事なんだ」
「用事って?」
Fは疑うような目で僕を見た
それは何かを探るような目つきだった
僕は隠しておくつもりはまったくなかったので
先日のショップでの出来事をFに話した
「やるなあ、オマエ」
「まあな、へへへ」
「年上の女か‥‥‥いいなあ」
Fはうらやましそうに僕の背中をたたいた
日曜日の朝
僕はふだんより早起きをした
釣りに出かける用意をしていると
「ヒロシ、なんだかおまえ嬉しそうじゃないか」
洗面所にいた父親が歯ブラシをくわえたままそう言った
僕の様子がいつもと違うのに気づいたのだろうか
「なことないよ、友達と釣りに行くだけじゃんか」
父親もFと同じ探るような目つきで僕を見た
感づかれたかな‥‥‥?
しかし父親にはなにも明かさなかった
Fと違って根掘り葉掘り聞くに決まっている
そしてあらぬ想像を膨らませ
最後には一節説教をたれるのだ
僕は口が裂けても父親にだけは言うまいと思った
待ち合わせた場所に少し早目に着いた
彼女はまだ来ていなかった
そして約束の時間になったが
彼女は現れなかった
それからさらに1時間待ったが結局来なかった
「くそっ、すっぽかされたか」
そういえばあまりにも調子が良すぎたな
体中から力が抜けていくのがわかった
父親に話さなかったのがせめてもの救いだった
このまま家に帰るわけにもいかず
気がつくといつもの釣り場に来ていた
「ちぇっ、なにが幸運を呼ぶルア−だ」
「ふん、なにがいい魚が釣れるだ」
僕はふてくされながら
その幸運を呼ぶルア−を結ぶと
力いっぱいキャストした
‥‥‥つもりだったが
「痛っ!」
振り返ると後ろに人が立っていた
そしてルア−のフックがその人の耳に刺さっていたのだ
「あーっ!ごめんなさい!」
僕は動転してしまったが
もっと驚くことがあった
後ろに立っていたのはなんと彼女だったのだ
「だ、大丈夫ですか。は、早く病院へ行かないと」
「ふふふ、だいじょうぶよ」
彼女は意外なほど落ち着いていた
「私、慣れてるもん」
耳にルア−ぶら下げたままにっこり微笑んだ
ルアーはまるで銀色の大きなピアスのようだった
僕は口をパクパクさせたが言葉は何も出てこなかった
そして、さらに驚いたことに
彼女の下半身がみるみる魚に変身していったのだ!
彼女は人魚だったのだ!
僕は気絶しそうになるのを必死でこらえながら
その場に立ち尽くしていた
「ねっ、言ったでしょ、いい魚が釣れるって」

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