Angling Net / North Fields Report


written by kouki yoshida ........ it is inserted with the original.
イトウ釣り・最終章
ぼくはずっと、イトウ釣りについて、その経験を重ねているのだと思っていた。
この先もどんどん積んでいくのだと。
しかし、いつからかそうではなくなっていて
それは引かれていっているのだった。
「あと何匹のイトウに出会うことができるのだろう。」
北海道での生活の終わりを意識したあるとき
そうやって想像したぼくは
はっとする思いでいた。

この春から北海道にやってきた一年のハシモトが
初めてのイトウを手にした。
なんど立ち会ってもこの光景はいい。
バタバタと大きくロールするミノーを
ショートジャークで、ストップを入れつつアクションさせる。
水面下で、「ぎらぎらっ」と光を放つ。
「いい感じで動かすな〜。」
そう思いながら後ろで見物していたら、底からぐわ!とイトウが突進し、プラグに喰らいついた。
ぼくも「やったー!」と叫んで、取り込みを手助けした。
たとえイトウを釣りたいと思っていても
この釣りの、清涼感とは程遠い、過酷とも言えるシチュエーションに躊躇してしまう釣り仲間も少なくない。
イトウと出会う喜びを増幅させるものとして
この場所をポジティブに受け入られるかどうか。
帰りの車中で、「来週また行きたい!」
と話すハシモトの姿が嬉しく感じられる。
さて一方、ぼくはどうだったかと言うと・・・・・・

今回の釣行4バイト目。
最後の最後にやっとフッキングした51cm。
スローテンポのショートスケートに
「バコッ!」
と飛びついた。
ファイト中、誤ってクラッチを切ってしまい
さらにそれが戻らずハンドルぐるぐる空転
というアホなトラブルに見舞われる。
イトウ放し飼い状態。
水中に突き刺さったラインが
右へ左へ、ゆったりとした動きをみせる。
結果的にキャッチ出来たからよかったものの
あれでバラしてたらどんなに後悔したか!
川に戻すとき
早く帰りたそうなイトウを引き止めてしばし眺めた。
顔周りの黒い斑点が印象的なイトウだ。
トラウトのくせに
あんなトップウォーターに襲い掛かるなんて・・・・・・
改めてそのことを素晴らしく思う。
釣りを終えて川沿いの道のりを引き返す。
しばらく行ったところで、ふと
あのイトウが、ぼくに残された数少ないイトウとの出会いのひとつであったことを思い出した。
今さらながら
もう一度、一連のシーンを頭に思い浮かべる。
ぬかるんだ泥に足をとられながら、繁茂する草木を掻き
分けながら、ぽわ〜っとした余韻にひたった。
終

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