Angling Net / The Grotesque Night

サンダルおやじの船で釣りをすること

登場人物:サンダルおやじ
(本名不詳。ニックネームはムゥ=豚。ナコーンサワン在住、40歳)
サンダルを素材にしてルアーを作るのでそう呼ばれている。頑健な体と、お笑い系の巧みな話術が売り。甲高い声が玉に瑕。



サンダルおやじのボートに乗る。おやじといってもボクよりひとまわりも若いので、サンダルおやじの方からすればこっちがオヤジなのだが‥‥‥。

フラットなグラスボートに15馬力エンジンを積む。重いエンジンをひょいと肩に担いでマウントにセッティングする。怪力の持ち主である。エレキはなしでパドリングオンリー。ボートのバウに小さなお風呂用のプラスチック椅子をセットして、それに大きなお尻をチョコンと乗せて漕ぐ。黙々と快適なペースでポイントを流していく。
投げたいポイントとパドリングの速度が絶妙なタイミングで合う。おそらく、サンダルおやじ自身が釣り好きなのだろう。タイ語しかしゃべらないが、言葉は不要。立木や水草にルアーを引っ掛けると、素早く外してくれる。そして、何事もなかったかのように流し始める。これ以上快適な操船は見たことがない。操船技術AAA。一瞬、微妙にタイミングがずれるときは、おやじがペットボトルの水を飲んでいるときだけだ。

残念ながら、サンダルおやじが流したポイントでプラーシャドーは釣れなかった。シャドーらしきバイトは二日間でわずかに一回のみ。遠来の客に釣らせてやれないジレンマなのか。たしかに、サンダルおやじに焦りの色が見えていた。
しかし、地元の漁師の船とすれ違うと、必ず独特の甲高い声で話しかける。最初は迷惑そうな顔の漁師も、サンダルおやじが二言三言しゃべると、途端に表情を崩して笑い出す。このおやじ、いったい何をしゃべって笑わせているのだろう。気になってしかたがない。おやじが漁師と楽しくしゃべっている間は、釣りは中断となる。

サンダルおやじが、二日間でボクに釣らせてくれた唯一の魚がこれだ。
Plaa Kasoop(プラーカスープ=獰猛な鯉)
おやじは、それがプラーシャドーでないことを悔しがっていたが、マイペンライ、マイペンライ。そんなこと、ボクはぜんぜん気にしていない。
シンキングミノーを駆使して、やっと取ったファーストバイト。ミディアムライトのボロンを根っこから曲げて、強烈に締め込んだこのパワー。そして、黒とオレンジに彩られた読売ジャイアンツカラーの美しい魚体。何も言うことがないじゃないか。まったく完璧じゃないか。十分楽しめた。忘れ得ぬ一匹になった。ありがとう、サンダルおやじ。


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