Angling Net / ikasas ikuy's "talk to myself"![]() ![]() 11 nov. 2004 saigon 1/6 ヴェトナムへ行く 昼過ぎ ホーチミンシティ・タンソンニャット空港着 タラップを降り立つと同時に ネットリとした空気が体にまとわりつく 熱帯特有の「あの空気」だ‥‥‥ 暑い 初めての地なのになぜか 「帰ってきた」という錯覚に陥る 空港からホテルへ直行 RRSホテル1702号室リバービュー 窓の外にサイゴン川と青い空が広がる その向こうは海だ 絶景‥‥‥ ![]() 地上17階から見下ろすサイゴン川 空が青いので青く見えるが実際はかなり赤い ボクが子供の頃 この国は南北に分かれていた 首都だったこの町はサイゴンと呼ばれていた ナガイナガイ侵略と抵抗の歴史の中の いまはひとときの安息の時間なのかもしれない しかし いつの日かまた 大きな不安がこの国を襲うとも限らない それはだれにも分からない なぜなら 地球上には大小多くの国家が散在し それ以上に多くの民族が存在するからだ そして それぞれの民族主義が頭をもたげたとき またも戦争ははじまるのである 初めてホーチミンシティを訪れたひとは バイクの多さにまず圧倒される ![]() ほとんどが日本製だ 道路という道路を ホンダ ヤマハ スズキ カワサキが埋め尽くし まるで洪水のように圧し流されてゆく ![]() バイク1台が日本円で約18万円だという 日本で買うのと変わらない これはヴェトナム人にとっては相当な出費であるはずだ それでも 彼らは生活を切りつめて高級品のバイクを買うらしい なぜなら バイクはヴェトナム人の「足」であり 「ファッション」であるからだ 1台のバイクに 家族5人がひしめき合って乗っているのも珍しくない ![]() バイクの群が目の前を猛スピードで駆け抜ける 歩行者が通りの向こうへ渡るのは命がけだ 12 nov. 2004 saigon 2/6 早朝 騒音で目が覚める カーテンを開けると サイゴン川は朝焼けに染まり始めていた ![]() 眼下を見おろすと ドンドゥックタン通りという川沿いの大きな通りを クラクションをめいっぱいに鳴らしながら 無数のヘッドライトが蠅のように往来していた バイクだ 騒音の元はバイクだった その数たるや尋常ではない 台北やバンコクもバイクの多い町だが その比ではない それにしても ヴェトナムの朝は早い‥‥‥ 幅20メートルもある信号機のないドンドゥックタン通りを 釣り竿片手に横断するのは至難のわざだ 物売りの婆さんたちは天秤棒を肩に バイクを縫うようにひょいひょいと渡っている ボクはへっぴり腰だ いつまでも渡るタイミングがつかめない ヨロヨロとチョコチョコと恐るおそる通りを渡る 何度も暴走バイクに跳ねられそうになりながら なんとかサイゴン川の岸辺にたどり着く 冷や汗でメガネが曇っている 意外なことに 岸辺には釣り人は皆無だ 散歩や体操をする市民はいるが だれひとり魚釣りなどしていないのだ 大阪の淀川あたりなら だれかが釣り糸を垂れているはずなのだが‥‥‥ 川は太く重く濁りの密度が濃い かなりの水深があると看た とんでもない大物がくるかもしれない 小さな期待が膨らむ 釣りのやれそうな場所を物色する 古い桟橋を見つけてその一角に陣取る さあ 釣るぞ‥‥‥ ![]() いかにも釣れそうな「臭い」のする古い桟橋 6フィートのパックロッドを継ぐ 8ポンドラインの先にはカウントダウン・ラパラ お汁粉のような濁流に第一投を投じた カウントダウン・ラパラは無事 サイゴン川の泥をフックで漉し取るように戻ってきた いい感じだ アタリは無いがいい感じだ 釣り始めて1時間 ついに竿先に 「コツン」と何かが当たる 「グイッ」と竿を起こす 「ヨシッ」と小さく叫ぶ 6フィートは大きな満月を描いた‥‥‥重い 次の瞬間 水面に長い紐が現れた 「クソッ」‥‥‥ゴミだ 日が昇り 岸辺はけだるい空気に包まれていた ボクは大都会のど真ん中を流れる川で 汗と徒労にまみれていた 桟橋の付け根では 沐浴をするおじさん 洗濯をするおばさん 岸壁からオシッコをする老人 お尻を出してウンコをする男‥‥‥ ![]() 桟橋の下に潜り込んで川に爆弾を投下をする男 サイゴン川のお汁粉のような流れには 大地を削ぎ取った赤土以外にも いろんな成分が含まれているのである 昼前 チョロンという華僑の住む町へ行く 町の中心は「チョ・ビンタイ」という市場 「ロ」の字型をした回廊式の古くて立派な建物だ ありとあらゆる品物が所狭しと並べられ 売る人と買う人でごった返している 昭和三十年代前半の 尼崎の出屋敷辺りにあった市場の風情を残している 豚や犬や猫の内蔵を茹でる臭気が立ちこめ 首を落とされ毛をむしられたばかりの鶏が山積みされている ソウルの南大門市場 釜山のチャガルチ市場 台北の淡水市場 那覇のマキシ公設市場 ボクはこういう脳を刺すような臭いのする市場が大好きだ 商品に値札はない すべて交渉で売り買いされる もちろん観光客向けではく市民向けの市場なので 言葉が通じないと大きな労力を要する 欲しいモノを指さして 「バオニュウティエン(おいくら?)」と尋ねる 電卓と指を駆使してコーヒードリッパーやバッグなどを買う 何を買っても信じられないほど安い しかし 売り手にとってボクは格好のカモだ ![]() ビンタイ市場の正面入り口 市場とは思えない重厚な建築物 帰りに有名なベンタイン市場ものぞいてみたが こちらは観光客を相手にしているようで 「オニーサンヤスイヨ」 「オトーサンオマケスルヨ」 などと 巧みな日本語を使うし値段も高い チョ・ビンタイのような泥臭さはない 華僑 その強かさは世界中の大都市を見れば分かる もしかすると これ以上に頑健で屈強で奇怪な民族はないのではないか ヴェトナムはその中国に1000年間支配された 中国に隣接する不幸が一世紀に及んだのだ しかし いま ヴェトナムはヴェトナムである 華僑の強かさを継承し 独立国ヴェトナムはアジアの強国になりつつある ヴェトナムはヴェトナム いかに中華の血が混ろうともその事実に変わりはない 13 nov. 2004 saigon 3/6 メコン川へ行く ホーチミン市から約2時間 メコンデルタの一隅にあるミトーという町を目指す 朝 ホテルの前に迎えに来たツアー会社のワゴン車には 見目麗しき女性客が二人 いずれも二十代半ばのニッポン人 神戸から来たという 物腰の柔らかさといい 気遣いの細やかさといい 実に上品で洗練されている 無遠慮でミーハーな日本人観光客が多い中で こんな「お嬢さま」もまだニッポンには居るのだ ああ 怪しいオッサンの団体といっしょでなくてよかった‥‥‥ ロッドを持参するつもりだったが ツアーに自由時間はほとんどないという 大河メコンを眼前に 泣く泣く釣りは諦める ミトーに着くと さっそくエンジンボートに乗ってメコン川に浮ぶ ゆったり どっぷり メコンは想像どおりの雄大な川だった ![]() インドシナ半島の養分を濃縮したメコンの赤い流れ この下には体長2mのメコンオオナマズが息を潜めている 「お汁粉」あるいは「赤出汁」ともいうべき濃厚さで 川はトロリと甘く重く流れる メコンの川面を風が爽やかに通りすぎる ![]() 一度出漁すると一ヶ月は戻らないという大型漁船 大勢で漁網の繕いに精を出しているところ さらに河口の島(三角州)に上陸し ジャングルの中を歩いたり水路を小舟で巡ったりする 船から上がるとき 船頭に1万ドンのチップを渡す仕組みになっている 観光化されたツアーだが 初めて見るメコンデルタの風景には感動する 再来の機会があれば 法外な報酬でウデの良さそうな漁師を雇って 水深13メートルの底に潜むメコンオオナマズを パンの耳か芋団子で狙ってみたいものだ ヴェトナム人は働かなくても食えるらしい 特に南部メコンデルタ周辺の肥沃な大地では 種をまくだけで勝手に農作物ができ 手を伸ばせばどこにでも果実が熟れ 川に網を張れば昼寝をしている間に 魚の方から網に掛かってくるのだという だからヴェトナム人はどんなに貧しくても 飢えることはないのだという 本当なのか‥‥‥ サイゴン川の支流のタウフー運河沿いをクルマで走ると ドブそのものといった川岸に びっしりと民家が建ち並ぶのが見える 民家といっても小屋あるいは納屋のようなスラム街だ 河床式の民家は競うように川にせり出し 頼りなげな細い柱でその体重を支えている 屋根はことごとく赤茶けて崩れ落ちかけている そこにはヘドロ以外の何もない 肥沃な大地も豊かな水もない それでも人々は 狭い都会の川岸に押しあい圧しあいしながら生きている なぜ豊かな大地に背を向けて 息の詰まりそうなスラムに集まるのか‥‥‥ しかし 思えば 少し前のニッポンもこうだったではないか 終戦直後のニッポン人も 東京や大阪の狭い土地に寄りそいつつ すきまだらけの羽目板を囲い 穴だらけのトタンを乗せただけの小屋に 押しあい圧しあいしながら住んでいたではないか 昼 メコン名物の「象の耳の魚」という魚を食う 姿が象の耳に見えるらしいが どこがどう象の耳なのか エンゼルフィッシュを獰猛にしたようにしか見えない ![]() 象の耳の魚の揚げ物 一尺余りもある立派な象の耳の魚 どうやって獲るのかと聞くと養殖だという 自然にいる象の耳の魚は自分より小さな魚を食うらしい おお! なんとなんと 象の耳の魚は立派なゲームフィッシュではないか 食べ方は 姿揚げにされて大皿の上に垂直に立った象の耳の魚の肉を解して 香草と一緒にライスペーパーで巻いてヌクチャムをつけて食う 雷魚のようなしっとりとした食感はない 味はいまいちだが 釣ってみたい強い衝動に駆られる 14 nov. 2004 saigon 4/6 ホーチミン美術博物館へ行く ![]() ヴェトナムの古美術から現代アートまでを網羅している 入場料10,000ドン 非常にリーズナブルな入場料だ ![]() 初めての町に来たら 水族館と美術館は観ておきたいと思う 前者は「釣り」への興味からで 後者は「美」への探求心からだ ![]() 博物館や資料館は好きではない 古美術や骨董にはまったく興味がない しかし 現代絵画は面白い いくら観ても見飽きない ![]() 絵から伝わるメッセージは強烈だ たとえ言葉の通じない外国人の描いた絵でも それは同じである ![]() 何点か目に焼き付く素敵な絵があった 展示即売しているのもあったが 値段が高いのと持ち帰るのが困難なので断念する 夕方 サイゴン川の川岸に立つ 夕涼みの人が大勢居る中でルアー投げるのは やはり少し勇気が要る さあ 釣るぞ‥‥‥ ![]() いきなり竿が曲がる オッ!きたか!‥‥‥と思ったらビニール袋だ こんなところでも武庫川一文字と同じモノが釣れるのか 釣り始めるとすぐに子供が見に来る ひとなつっこそうな笑顔で集まってくる ![]() 口ぐちに何かを訴えかけてくる おそらく 「そこは釣れない」 「こっちへ投げろ」 「もっとゆっくり巻け」 「オマエはとんでもないヘタクソだ」 などと 大人みたいな減らずぐちを叩いているにちがいない ![]() 場所を変えると またぞろぞろとついてくる この国の人は老若男女に限らず釣り好きと聞いたが 興味を示すのは子供だけだ ![]() 「オマエラジャマヤサカイアッチイットレ!」 と正しい大阪弁で怒鳴ってやったが まったく意に介さず‥‥‥ 初めて訪れた外国で 魚を「釣る」というのは難しいことだ ゲームフィッシングの先進国ならまだしも 東南アジアの真っ赤に濁った川で ガイドもなにもなしで何かを「釣る」のはとてもむずかしい それでも 釣り人の勘は何かが「釣れ」そうな気がするのである だから ありとあらゆる疑似餌を 取っ替え引っ替えお汁粉の中にぶち込む そして 疲れ果て くたびれ果て やがていつもの挫折である オーストラリアではダイヤモンドフィッシュを釣ったし タイではプラーシャドーを釣った しかしヴェトナムでは 何も釣れなかった 何も 釣れなかった 15 nov. 2004 saigon 5/6 この国の公用文字は アルファベットにオマケをつけたような文字である ニッポン人にも読みやすい文字だ 例えば「Ho-Chi-Minh」は ヴェトナム語では「Ho」の「o」の上に「~」がつく 「~」があってもなくても「ホー」と読める ![]() ほかに「?」マークの上だけとか 「^」や「`」や「´」や「.」など 英語にない記号や難しい声調記号があるらしいが タイ語に比べたら難易度は低い 雑貨 ヴェトナムは雑貨が美しい しかも安い アオザイ(アオヤイ)などの衣料 バッグ サンダル ビーズ製品 陶磁器 漆器などなど ![]() 市場や雑貨屋を駆け回って買い集めた バッチャンやセラドンの一部 ヴェトナム雑貨は信じられないほど安い そこでにわかブームが起こる 日本人(特に女性)がヴェトナムへ押しかける 少々ふっかけても「安い」といって買っていく ヴェトナム人にとっては 馬鹿じゃないかと言うぐらい高値で買っていく ドンコイ通りの小綺麗な雑貨屋は観光客であふれかえっている 市街地から少し離れると同じものが半額以下で売られている チョロンのビンタイ市場でヘタに値切って1ドルだった雑貨が 中心街や空港では3ドルだ 当然といえば当然だが 不思議といえば不思議である この5日間 ボクはヴェトナム料理を食べまくった そして食べ疲れた ![]() それほど高級でない小さな店ほど 驚くほど美味い料理を出す 中華とフランスの融合に ngon ngon(うまいうまい)と言いながら 鶏 家鴨 豚 牛 海老 蟹 蝦蛄 魚 魚 魚 貝 鶏の卵 家鴨の卵 皮蛋 ライスペーパー ライスペーパー フォー フォー 野菜 香草 香辛料 ヌックマム ヌクチャム えとせとら えとせとら なんでもかんでも手当たりしだいに胃袋に詰め込んだので とうとうボクの胃は悲鳴をあげた 最終日 無性にお茶漬けが食いたくなったのである ![]() サイゴン川のディナークルーズ船は夜8時頃出船する 連日ツアーの観光客で満員だ どんなものかと乗ってはみたが ここは雰囲気を楽しむべきところであって 決して味を求めてはイケナイと知る ![]() 残念ながら今回は屋台では食べなかった しかし 屋台にこそ 本当のヴェトナミーズテイストがあるような気がする 蛇 蜥蜴 亀 蛙 鼠 芋虫などなど 次回来越の折りには必ず‥‥‥ ヴェトナムビール 滞在中いったい何本ビールを飲んだことか‥‥‥ 日中は暑いので歩いては飲み 飲んでは歩く そして夜は 料理の美味しさについついまた飲み過ぎる ![]() 333ビール(ビア・バーバーバー) 苦みが少ないがキレがある ![]() ビア・サイゴン(赤ラベル) 333よりややコクと旨味が強い いずれにしろヱビスのような深い味わいはない しかし 暑い国ではこういうビールが飲みやすいのだ 暑さでビールはすぐにぬるくなる そんなときは「チョートイ・ダー」というと グラスに氷をたっぷり入れてくれる 16 nov. 2004 saigon 6/6 in addition everything ホーチミン歴史博物館‥‥‥工事中で入れなかった ホーチミン動植物園‥‥‥前まで行ったが入り口がわからなかった 戦争証跡博物館‥‥‥行かなかったが行くべきだった ![]() ホーチミン市博物館‥‥‥ 特に観るべきものがなかったが この5弦ギターはとても美しかった ![]() このタイミングならじゅうぶん通りを渡れる 滞在中にボクは見違えるほど道路を渡るのが上手くなった ![]() 何かの違反をして警察に捕まっているバイク ![]() the bride of vietnam ![]() u.b.n.d.t.p. ホーチミン人民委員会庁舎 タカサゴトシアキ 香川県出身 兵庫 島根 千葉 バンコク 東京 長野と 短い期間に転居をつづける忙しいプレスマン 彼の妻はヴェトナム人だ 若くて賢くてとても美しい 彼女がまだ高校生だった頃 ホーチミン像が見おろすその下で タカサゴトシアキは彼女をモノにしたらしい ヴェトナムへ行く前に ボクは彼女からフォー・ガーのレシピを送ってもらい 自宅で試してみた 本場で食べたフォー・ガーより うまかった 富山県の五箇山で 彼女が作ったゴーイ・クオン(生春巻き)を食べた 本場で食べたゴーイ・クオンより うまかった ボクはタカサゴトシアキから ヴェトナムへ行く前に「必ず読め」と 一冊の本を薦められた 「サイゴンから来た妻と娘」 実際この本を読んで行ったおかげで ヴェトナム とりわけsaigon (ho-chi-minh) の街がくっきり見えた どの観光ガイドブックより役立った タカサゴ夫妻のおかげで楽しい旅ができた カムオン・トシちゃん カムオン・ヴァンちゃん カムオン カムオン 帰路 「ヴェトナム航空940便は機体整備のため出発時刻が遅れます」 3カ国語で流れるアナウンスが繰り返される そして案の定 1時間半遅れが2時間になり 2時間遅れが3時間半遅れになり とうとう待つこと5時間 もうとっくに日本に到着するはずの時刻を過ぎて 940便はようやくタンソンニャット空港を飛び立った ああ くたびれた おもしろかった ![]() またいつかここへ来よう end....... 11/17へもどる old tales |